キョウリュウ詰め

2013_キョウリュウジャー,[R18]

201305赤金
201305赤金

『今だけお屋形さまでいいぜ』

天窓から、半月が見える。
空蝉丸は座り込んだまま、その月を眺めていた。
襖が開いて、「彼」が入ってくる。
「お屋形さま……」
思わず呼びかけてから、途方に暮れた相手の顔を認めた。彼は気まずそうに鼻の頭を掻き、殊更ていねいに襖を閉める。
「……なんか、悪ぃな」
「いや、まちがえたのは拙者でござる! どうか……」
両手をついて詫びると、ダイゴはあわてて駆け寄ってきた。空蝉丸の顔を上げさせた彼は、さらにうろたえた表情を見せる。
「……泣いてんのか」
「いや……」
とっさにそう答えたものの、自分で触れた頬は濡れていた。
「月の姿があまりに変わらぬゆえ、錯誤を起こしただけのこと……」
「月?」
ダイゴも窓の外を見やり、「ああ」とだけ呟いた。その横顔から、目が離せなくなる。
「こうして月明かりの下で見ると、いよいよ似ておられる……」
手を伸ばして彼の頤に触れた。ひげはないが、精悍な顔つきはそのまま。目を細めて慈しむようにこちらを見つめる表情も、やわらかい唇の感触も、すべてが記憶とたがわない。
「ウッチー……」
小さく呼びかけられ、自分が彼の唇に指をすべらせていたことに気づいた。
「……あ! いや、これはご無礼を……お許しくだされ!」
動転して後ろへ身を引こうとし、体勢を崩して倒れてしまう。支えようと空蝉丸の手をつかんだダイゴも、いっしょに倒れ込む。
「だいじょうぶか?」
真上から覗き込んでくる彼をこれ以上錯覚しないように、顔ごと目を背ける。
秘め事は苦しい。弱い心を晒すよりも苦しい。
「……軟弱と責めてくださってもかまわぬ。不愉快ならば詰ってくだされ。こんな夜は、あの方の肌が恋しくてたまらぬのだ……」
彼が息を飲むのが聞こえた。
しばらく衣擦れの音さえしなかったが、首にかかった髪をそっとよけられ、驚いて目を上げる。
「じゃあ、今だけお屋形さまでいいぜ」
「なに……」
いたずらっぽく不敵に笑う顔は、まさしく見知った主そのもの。空蝉丸は夢の中へ落ち込んだ感覚に囚われる。
「なあ、空蝉丸?」
その声で、その名を呼ぶ。
「……!」
身体の奥まで瞬時に熱くなった。空蝉丸は愛しい主の身体を引き寄せ、その肩口に顔をうずめていた。

だれかの代わりになどなりたくない。
そもそも、だれかの代わりができる人間なんて存在しない。
それでもダイゴは、つかの間の代理を引き受けてしまう。家族、友人、教師。臨時の雑用だって、だれかがやるべき仕事だ。そこにいるべき人間がいなくて世界が崩れ落ちそうになっていたら、今だけでも支えてやりたい。
「あぁっ……!」
空蝉丸が喘ぎすがりついてきた。つながった部分もダイゴをきつく締めつけて離そうとしない。目眩を起こしそうなほど気持ちよくて、そして彼もまた快感に浸っているのが身体の反応で如実にわかる。
余計なことを考える隙などないのに、かすかな違和感がダイゴの心に引っかかっていた。
空蝉丸は、彼の「お屋形さま」と同じくらいにダイゴを好いている。自分も、空蝉丸が好きだ。だからなんの問題もないと思っていた。
しかし彼がダイゴを求めてすすり泣くほど、焦燥感が襲ってくる。腰を抱えて奥まで貫いても、肌に唇を押しつけ痕を残しても、違和感は消えない。
限界まで追いつめられた空蝉丸が、全身を震わせて咆哮した。
「キング殿……っ!」
名を呼ばれて我に返る。そうだ。今の自分は、「お屋形さま」の代わりだった。
ダイゴは息を整えるのも忘れて空蝉丸を抱きしめる。
「悪ぃ、やっぱおれ、お屋形さまにはなれねえ……」
彼を悲しませるかもしれない。でも嘘をつくほうが失礼だと思うから、ダイゴは謝るしかない。
だが彼は静かに笑い、ダイゴの頭を抱き寄せて撫でた。
「……承知」
そういえば、空蝉丸はたしかにダイゴを呼んだ。お屋形さまとは一度も口にしていない。
「ウッチー……」
彼はダイゴとまっすぐ目を合わせる。
「まちがえようにも、あの方はこんなに手荒ではない」
「……言うじゃねえか」
彼の眉間を小突くと、はにかんだ笑顔が返ってきた。
「確かめたかったのかもしれぬ。お屋形さまがもうおられぬことを。このような戯れにつき合わせて、申しわけ……」
つまらないことを言いかける口を口でふさいだ。
わずかに戸惑った舌は、すぐにこちらの意図も癖も飲み込んで、逆に挑んでくる。苦しくなるまで貪り合った二人は、恍惚のまま互いの瞳の奥を見つめた。
「……おれはいつだって本気だ」
代わりでも戯れでもない。空蝉丸に自分を求めてほしくて、ダイゴは空蝉丸を抱いていた。そんな単純なことにどうして気づけなかったのか。
「……………」
空蝉丸はなにも言わずダイゴを組み敷く。その目を見ただけで、ダイゴのかすかな不安は消えてなくなった。過去から来た彼が、自分と同じこの時間を生きてくれるのだと疑いなく思えた。
「ようこそウッチー、おれの世界へ」
「よろしく、拙者のキング殿」

(by alkali, May, 2013)

うーんと、たぶんソウジくんちですねここは。
人んちをなんだと思ってるのか。

作成日: 2013年5月26日(日) 17:26

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