劉鵬/黒獅子

2007_風魔の小次郎,[R18]

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同棲2

気恥ずかしさを噛みしめながら、劉鵬は相手を抱き寄せる。
どうにも、慣れない。その据わりの悪さは、男同士だとか自分が「下」だとか、かつての敵だったなどという理由ではなかった。もちろんこの行為自体に対する憧れや羞恥も、少年時代に置いてきている。
居たたまれない気持ちになるのは、相手のまっすぐな想いだ。
「はぁ……っ」
黒獅子の息はすでに荒い。劉鵬の胸元に濡れた唇が押しつけられるたび、熱く湿った息が同時に吹きかけられる。くすぐったいだけなのか、感じているのか、自分でもよくわからない。それでもとにかく身をよじって喘ぐ劉鵬に、黒獅子の愛撫はさらに激しくなるのだった。
黒獅子の唇が、胸の突起をとらえた。思わず身体が震えるのは、反射のようなものだ。舌先でつつかれ、優しく歯を立てられ、かと思えば強く吸い上げられ、否が応でもそこに意識が向いていく。
「ぅん……」
痺れて疼くその部分は、唾液で濡れて勃ち上がっているだろう。身体がそんなふうに反応してしまうことも、さほど抵抗はなかった。もとより、順応する術に長けた身だ。そう、身体はとっくに「慣れて」いる。
二の腕を押さえつけていた手が離れ、代わりに裸の脇腹をなぞっていく。うねる筋肉の感触を味わっているようだ。劉鵬も解放された両腕を黒獅子の背にまわした。広い肩、ごつごつとした背中の骨、肉づきのいい腰……劉鵬はうっとりとそのかたちをなぞる。この肉体を持つ男には、自分の身体は少しもの足りないのではないか。そうでないとしたら……
「ぁ……」
劉鵬は黒獅子の背にしがみついていた。あばらの上あたりを強く吸われたせいもあるが、またあの気恥ずかしさがもどってきたからだった。
「……………」
黒獅子が熱いため息をつく。そのため息が表す感情が劉鵬には手に取るようにわかるだけに、つい脇の壁に視線を逸らしてしまう。硬いだけの薄い胸に高い鼻を押しつけ、それから頬をこすりつけてくるのも同じ想いからだ。
そこまでやって黒獅子は顔を上げ、劉鵬の顔を真上から覗き込んだ。
「……おい」
呼ばれては無視するわけにはいかない。劉鵬は気まずさを苦笑で押し隠し、彼と目を合わせた。黒獅子は満足げに不敵な笑みを浮かべ、唇を重ねてくる。有無を言わせない勢いに、劉鵬はおとなしく目を閉じた。
「ん、んぅ……」
日本人離れした見た目を裏切らない、情熱的で濃厚な口づけがつづく。今度は、痺れていくのは舌ではなくて頭だ。黒獅子は劉鵬の呼吸も思考力も奪おうとしている。息苦しくて、劉鵬は何度も相手の背中に爪を立てそうになった。
さっきと同じく脇腹を下りていった手が、寝間着代わりのジャージにかけられた。二人ともまだ下は脱いでいなかったが、服越しにぶつかる股間が熱を持ちはじめているのはわかりきっている。最終的にはそこをどうにかするしかないのだから、最初からすればいい、と劉鵬は思っていた。
だが、黒獅子は遠回りをしたがる。そうして、劉鵬に触れる時間を引き延ばそうとする。最初のうちは焦らして遊んでいるのかと思ったが、そうではないらしい。
「……んんっ」
下着の中へと手が這い込んできて、爪を立てる代わりに肩甲骨を掴む。
なにかを訴えようにも口はふさがれていて、舌さえも自分の意志では動かせない。常人より息は長いはずだが、相手も同類だ。とっくに酸素切れになっている劉鵬は、息をしようと口を開いてはさらに黒獅子を受け入れてしまっていた。その上、熱を帯びた陰茎に骨ばった指が絡みついてくる。自分とはちがう力加減でしごかれ、浅ましく勃ち上がった欲望の先端は、すでに涎をこぼしはじめている。
「ん……ぁ……」
制御もできないことはない。だが今ここでそうする意味はないし、万が一にもそんなことをしたら、黒獅子は怒るだろう。怒った黒獅子の報復が怖いのではない。彼に不愉快な思いをさせたくないのだ。だから、劉鵬は無防備に黒獅子が与えるものを受け入れる。劉鵬にできるのは、それだけだったから。
「……はっ」
黒獅子がようやく口を離した。大きく息をつきながらも、どこか悠然と唇を舐めるさまは、獅子の名に恥じない貫禄だ。
それにひきかえ、こちらはあふれる唾液を飲み込みも拭えもせず、汚されるまま食われるがままになっている。彼が美しい獅子なら、自分は愚鈍な草食動物だ。その思いつきについ笑みが洩れたのは、自嘲なのか、それとも。
「……黒、獅子」
みっともなく声が上ずったが、今さら体裁を取り繕おうとも思わない。
「俺だけ追いやるなよ。……な?」
「……っ!」
なぜかぐっと詰まった黒獅子はあわてたように目をそらし、劉鵬を握っている手を乱暴に動かした。
「ぅうっ、こら……ぁっ……」
力なく抗議の声を上げ、劉鵬は再び黒獅子の肩に縋りつく。黒獅子が息だけで笑うのが聞こえた。バカにしているのか、と頭の片隅で思ったが、それならそれでかまわない。むしろ気楽なくらいだ。捕食者と獲物の関係なら、気恥ずかしさなど生まれない。
「焦らすなよ……」
彼の真似をして、相手のジャージを引きずり下ろそうとする。だが黒獅子は自ら下着をずらすと、すでに劉鵬よりも大きくなっているそれを、劉鵬自身に押しつけた。
「ぉお……っ」
「う……んっ」
二人は同時に呻いて、相手の肩にひたいを押しつける。黒獅子は握っていた手を離し、腰を動かしてこすりつけ合うことで互いを刺激しようとした。劉鵬もひざを開いて黒獅子の腰を挟み込み、互いに逃げられないようにする。
息を切らして腰を揺らす黒獅子のあごから汗が伝って、劉鵬の鎖骨に落ちた。その荒い息づかいと動きだけで、犯されているような気分になる。身体のほうもその気になっているのか、探られてもいない腹の奥が疼きはじめていた。
「一回……イっていいか……?」
切なく眉を寄せて尋ねてくる黒獅子に、劉鵬は何度もうなずくことで同意を示す。二人はほとんど同時に呻き声を上げて達した。仰向けになっていた劉鵬の腹には、二人が吐き出した精が胸まで飛び散ってどろりと伝い落ちた。
黒獅子は腹の白濁を指先ですくい取り、にやっと笑う。
「……エロいな」
「そりゃあ、よかった」
肩で息をしながら笑顔を作って答えるが、黒獅子の顔は逆に曇った。
「どうしていつもそうなんだよ……」
唐突なその言葉の意味を劉鵬はよくわかっていた。黒獅子がなにに不満を持ち、なぜ自分がそれをどうにもできないのかが。
「……すまん」
自分のことなのにどこか他人事のような反応をするのは、劉鵬の性分だった。それはときに醒めているようにも、不真面目で本気でないようにも見えてしまう。意外に直情的なところがある黒獅子の目には、それがもどかしく、苛立たしく映るのだろう。そんな彼を納得させるのは難しい。
「あのな、黒獅子」
どう説明したものかと考えながら、劉鵬は口を開く。
「おまえはどうか知らんが、俺は初めてなんだ」
「なにがだ?」
露骨に怪訝そうな、いっそ不機嫌そうな表情が現れる。それはそうだ。最初に交わったときから、劉鵬はやり方を心得ていた。初心なところなど少しも見せたことがない。
「あー……」
できれば、その問いには答えたくなかった。劉鵬は感情を隠すときの常で曖昧な苦笑を浮かべかけたが、それは成功したとは言いがたかった。
「……恋愛、ってやつだよ」
声が震えるのを自覚したとたん、顔に血が上る。
忍びたるもの、心を隠し気持ちを殺すのがあたりまえ。肌を重ねても情を移すことなどなく、どれだけ相手が真剣でもこちらが抱くのは罪悪感程度でしかない。
なのにこの男相手に限っては、まっすぐな想いをかわしきれなくなっている。だから気恥ずかしいのだ。この自分がそれほどまでに想われているということが。
「なんだ、それ」
予想の範疇外だったのだろう、黒獅子が口を開けたまま呆然と見下ろしている。特殊な感覚にはちがいないから、わからなくてもむりはない。
劉鵬は火照った頬を両手で隠すようにしてごしごしとこすり、なんとか笑ってみせた。
「だから、死ぬほど好きな相手に死ぬほど優しくしてやりたいのはおまえだけじゃないってことだ。……ほらぁ、早く来いよ、優しくしてやるから」
「なに言って……!」
今度は黒獅子の顔がみるみる朱に染まっていく。それで溜飲が下がるわけもなく、劉鵬は半笑いでため息をついた。
恋とは、かくも気恥ずかしく、くすぐったいものなのだ。しばらくは慣れそうにもない。

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