劉鵬/黒獅子

2007_風魔の小次郎,[R18]

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黒劉

雨が降ってきたが、それほど強くもなかったからあわてることはしなかった。
もう少し先にコンビニがあったはずだ。そこで雨宿りして、やみそうになかったら傘を買えばいい。
それでもやはり楽しい気分ではなく、つい気持ちも頭もうつむきがちになる。
そんな黒獅子を包む湿った空気を払うように、耳慣れた声が耳に飛び込んできた。
「黒獅子か?」
勢いよく振り返れば、予想通りの人物が予想通りの顔でそこに立っていた。
「やっぱりな」
劉鵬は穏やかな笑みを浮かべて、ごく自然に黒獅子と肩を並べた。と同時に、似合わない色の傘があたりまえのように黒獅子の頭上へさしかけられる。
「おまえ、傘は?」
「今から買いにいくとこだよ」
だからこんなものはいらない。そう強がろうとしたが、その機会はなかった。
「じゃあ、店まで入っていけよ」
「お……う」
断るタイミングを逸し、黒獅子はおとなしく劉鵬の横を歩くはめになる。
だがすぐに間が持たなくなって、目の前にある傘の持ち手をひったくっていた。
「俺が持ったほうが楽だろ」
「そうか? すまんな」
遠慮する風でもなく、かといって厚かましくもなく。黒獅子のようにやたら意識することもないのか、劉鵬は普段どおりに、しかし器用に黒獅子と歩幅を合わせていた。
「あー……」
話題を探して横目で彼を見わたし、提げている買い物袋に目をやった。ずいぶんと所帯じみた中身が見えている。
「買い物帰りか?」
劉鵬は正面を見たまま返事をよこしてきた。
「いいや、次は別の店だ。柳生の指南役から買い物を引き受けたら、うちの居候たちもあれがほしいこれがほしい言い出してな。勝手なもんだよ」
面倒見がいいにもほどがある、といつも彼の話を聞くたびに思う。柳生の屋敷に滞在しているのは忍務のためで、居候の気遣いは不要のはずだ。弟たちの頼み事をなんでも聞いてやるのも厳しさが感じられない。ナメられるだけだ、と黒獅子は思っていた。
「ガキのパシリさせられて悔しくねえのかよ」
「……そう思ったことはないなあ」
わずかに驚いた顔で黒獅子を見上げた劉鵬は、しかしすぐに笑いを噛み殺すような顔になる。自分まで幼く見られている気がして好きになれないその表情から、わざと顔をそむけた。
そんな黒獅子の態度に気づいているのかあえて無視しているのか、彼はひょいと買い物袋の中を覗き込む。
「そうだ、おまえにもやろう。いちおう余分に買って……」
袋から菓子を取り出した劉鵬の、こちらに向けた顔があまりにも無防備だったから。
「いらねえよ」
苛立ちも手伝って、身体が先に動いていた。
「……これで、いい」
ゆっくりと唇を離しながらそう呟いた黒獅子を、劉鵬は暫し呆然と見上げていた。
傘を持ったまま歩きはじめると、我に返ったように菓子を袋に突っ込んで追いついてくる。彼らしくもなく動揺しているようだ。そう考えただけで気分が浮き立つ。
「不意打ちは卑怯だろ……」
「油断してるほうが悪ぃ」
服も髪も湿ったままだが、今だけは雨も悪くないと思えた。

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