黒崎/池田

2014_ST赤と白の捜査ファイル,[R18]

一人で、二人で

枕に顔をうずめると、彼の匂いがする。
と言ったら潔癖なところのある彼は嫌がるだろう。黒崎の言う「体臭」が、普通の人間には知覚できないものだとわかっていてもだ。
シーツやカバーは洗いたてで、部屋自体も窓を開けて掃除をした後なのだろうが、黒崎には池田の匂いが感じ取れる。
こうして彼が日々使っている部屋のベッドに横たわっていると、その存在に包まれている気がして心地よい。
そして匂いは記憶と直結する。このベッドの上で、池田がどんな顔をして黒崎に身を任せるか、どんな姿をさらけ出すか。肌の手触り、粘膜の感触、切なげに上がる声、汗の味、無自覚に黒崎を誘う妖しい匂い……
「……はっ」
昂奮に息苦しくなり、自然と下肢に手が伸びる。自分の中に熱を閉じ込めるようにうずくまって、下着の中のものを握り込んだ。
「んぅっ……」
枕に顔を押しつけながら、きつめにしごき上げる。池田の中ではもっと強く締めつけられるから、もの足りなくはあった。彼がその手で慰めてくれるときは、もう少し優しい。黒崎を貫きながら、なだめるように愛撫してくれる。
その想像をしているうちに前だけでは足りなくなって、後ろへ指を這わせた。
「ぁあ、んっ……」
つい声が洩れる。池田の細い指を思い出しながら、ゆっくり奥へねじ込んでいった。そこまでしなくてもいいというくらい丁寧に彼は黒崎の中を解してくれる。感覚がおかしくなりそうだと訴えてようやく、張りつめた熱が押し入ってくる。
「ぅあ……っ」
背後から犯される感覚を思い出そうとした瞬間、背後でドアが開く音がした。
はっと我に返るが、行為は止められなかった。
見られていることを意識しながら、自らの前立腺を探り当てる。
「はぁっ、あぁ……っ!!」
腰から突き抜ける快感に体がのけ反った。
吐き出した欲望をなんとか手で受け止めたが、すぐには起き上がれない。そんな黒崎の一部始終を、彼がずっと見つめている。そう思うとなかなか息が収まらなかった。
意を決して身を起こす。ふり返れば、戸口に池田が力なくもたれかかっていた。
「なにをやってるんだ……」
その声は部下が面倒ごとを起こしたときと同じトーンで、自分の想像の範疇を超えた事態に呆れているということがいやというほど伝わってきた。
「……………」
黒崎は彼から目を逸らし、ティッシュで後始末をする。彼に見つかることを予想しなかったわけではないが、やはり気まずいものだ。
「なんで俺がいるときにそういうことをする! しかも俺に気づいてて無視しただろ!」
無視したつもりはなかったが結果的にそうなってしまった。
首をすくめて彼のほうを伺うと、どう見ても怒っている。ベッドはまだ汚していないのだが。
「黒崎?」
部下を詰問するときの声だ。黒崎はいよいよ縮こまって、上目遣いに彼を見やる。
「……匂い、に」
欲情した。
ストレートな答えに、ぐっと詰まった池田は、また深くため息をついた。
「……匂いだけでいいんだな、俺はいらないんだな」
「!」
そんなことはない。黒崎は懸命に首を振って否定した。いくらなんでもそれは意地が悪すぎる考えだ。
「……待てなくて」
「10分かそこらだぞ、小学生でも待てる時間だ!」
大股にベッドまで歩いてきた池田は、乱暴に黒崎をベッドの上に転がした。
マットレスの弾力を背中に感じながら、彼を見上げる。
耳まで赤い顔は、憤りと別の感情が半々といったところだ。いかにも我慢がきかないという顔をしていて、黒崎は今達したばかりの体が再び疼くのを感じた。
「おまえ、まだ……」
それが表情に出てしまったのだろう。池田はいよいよ眉間の皺を深くして、黒崎に顔を近づけてきた。
一度目を閉じた黒崎は、しかし唇が重ならなかったことを意外に思い目を開ける。池田の口は、黒崎の首に噛みついていた。
「つ……」
首筋に鈍い痛みを感じる。普段の彼なら口づけの痕を残したりはしない。それが、明らかにきつく吸い上げて鬱血を作っている。動揺した黒崎は身を起こそうとしたが、強く押さえつけられ再びベッドに沈んだ。
自分で高めてしまった体は感じやすくなっていて、唇が触れるだけでも熱くなる。
「ぁっ……」
胸の先端を吸い上げられ、体がひくついた。黒崎がすることはあるが、池田はめったに触れてこない。なのに今日に限って、彼は執拗にそこを舌先で責めてくる。
「ふ……っ」
痛みとも痺れともつかない感覚がそこへ集まっていく。息が乱れるのもいつもより早い。
池田の唇は硬い腹まで下りていき……それから遠慮なく下着を引きずり下ろされた。
「!?」
次の瞬間、黒崎は思わず飛び起きていた。
勃ち上がりかけた中心へ、池田が舌を這わせている。冷たい粘膜の感触がぞわりと性感を刺激し、それは彼の手の中で躊躇いなく質量を増した。
今までそんなことをしたこともさせたこともない。彼の性格上ありえない、許されないことだと思っていた。
「ん、ぁあっ……」
舐めるだけでも勇気が要っただろうに、あろうことか池田は先端を半分ほどくわえ込んでしまう。その顔はとても見られなかった。
止めなければと思うが、声が出ない。いや、声だけは勝手に洩れる。惨めな喘ぎに忙しくて、言葉など全く浮かばなかった。
舌の動きや息づかいから、彼自身も戸惑っているのがわかる。黒崎を嬲るつもりにしては稚拙すぎるが、逆になにをされるか読めなくて翻弄されるしかなかった。必死に理性で押さえつけても、つい腰が揺れそうになる。喉の奥まで突き入れてしまいたい衝動に駆られる。さすがにそれは気が引けるレベルの話ではない。
「やっ……」
やめろ、と言うには快感が強すぎた。むりやり引き剥がすこともできず、ただ池田の奉仕に屈するしかなかった。
早く終わらせてほしい。だが、このままでは口の中に……
そう思ったとき、池田が顔を上げる。
「……………」
濡れた唇を赤い舌が舐めるさまは、黒崎の想像の中にもない。こんな顔をする男だったか……
「触るなよ」
「え……」
上を向いたそれを解放されないまま、ひざを大きく開かされる。
「今日は挿れてほしいんだよな?」
呆れた声で言われると、さすがに羞恥が先に立つ。せめてもうみっともない声は出すまいと歯を食いしばったが、彼の指が中へ入ってくるだけでその覚悟は脆くも崩れた。
「ひ……ぁあっ」
さっきほしかったのはこの感覚だ。こらえようとしても腰が浮く。
半ば無意識に自分の屹立へ伸ばしかけた手を払われた。そういえば触るなと言われたことを思い出し、仕方なくシーツをつかんだ。
普段は準備に時間をかける彼が、今日は指を抜く間も惜しむように腰を進めてくる。反射的に逃げかけた腰を押さえつけ、池田は「さっき自分でやってたじゃないか」とまた囁いた。からかっているというよりは苛立っている様子だ。
脚を彼の肩に乗せられ、そのまま突き込まれる。
「ぁんん……っ」
抱きついて縋りたいのに、池田はそれを許してくれない。眉根を寄せ、そのくせ上気して熱に浮かされた目を黒崎にまっすぐ向けたまま、腰を叩きつけてくる。
黒崎はシーツを掴みしめたまま背中を反らし、身をよじりながら必死に喘いだ。もう自分の声がどうなどと気にする余裕はなかった。
激しく突き上げられ揺さぶられ、腹の上で揺れる黒崎自身がついに弾ける。
「ぁああっ……!!」
黒崎の嬌声だけが部屋に響いた。先ほどの絶頂より数段強い快感が襲ってくる。比べものにならない、と思ったときに気がついた。
自分抜きで黒崎が満足してしまうことに対する苛立ちだったのか。
「はぁっ……」
黒崎の横に倒れた池田が、肩で息をしている。慣れない勢いに自分でも戸惑っているのだろう。
「……ごめん」
彼を怒らせたことは事実だから、頭を下げる。
池田は手を伸ばして黒崎の髪をかきまわし、「こっちこそ」と小さく呟いた。いつもより手荒だったことなら気にしていないと、首を振ってみせる。忘れがちだが黒崎よりも若いのだ。たまには勢い任せでもかまわない。
池田はしばらく自分の腕を枕にしてぼんやりしていたが、やがて黒崎を見やった。
「虚しくならないのか」
なにがと聞き返そうとして、自慰のことだと気づく。黒崎は首をかしげて考えたが、答えはNOだった。
「あんたのことだけ考えてるから」
「……!!」
完全に言葉を詰まらせた池田は、顔を覆って枕に突っ伏した。年相応かそれ以下に見えて、少し微笑ましい。
その肩を抱いて黒崎は問い返してみる。
「あんたは?」
「考えたこともない!」
その答えが事実なのか、はぐらかそうとしているのか、今の熱が引いていない彼からは判別できない。
だがこれからはいやでも脳裏をよぎるだろう。彼は、黒崎が池田で頭をいっぱいにして自分を慰めていることを知ってしまった。これから彼はどんな黒崎を想像して行為に耽るのか。抱かれている自分と抱いている自分の、どちらに昂ぶるのか。
そんなことを考えていたら、体の芯がまた熱くなってきた。今度は彼の中で熱を感じたい。本人がいるのだから妄想は必要ない。
池田の体をひっくり返し、鼻先を寄せる。
「なに……」
「俺の番」
今度はとくに文句もなく、ただ深いため息とともに腕が絡みついてきた。

(by NICKEL, Aug, 2015)

百「池田、黒崎さんとつき合ってるんだよな」
池「いや…つき合ってやってるといったほうが正しい…」
百「なにその上から目線。向こうから告ってきたんだとしても、そういうのってどうかと思うよ」
池「そうじゃなくて…だいたい告白なんかなかったし…」
百「あれ、そうなの?」
池「俺と黒崎がつき合ってるんじゃなくて、俺が黒崎につき合わされてる感じだ…」
百「えっ、つき合うって…えっ?」

黒崎という存在そのものの理不尽さ。

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