往壓/放三郎
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竜神地に墜つ
「行くぜ、雲七!」
『あいよ、往壓さん』
自らの騎馬に語りかけるなり、往壓の姿が消える。濃紺の夜空に、白銀の竜が舞い上がった。
竜となった往壓は恍惚のまま敵に襲いかかる。
熱い。全身が、胸の奥が。
熱い。なにかの感覚に似ている気もするが、今はなにも考えられない。ただこの悦楽を、永遠に貪っていられたら……
はっと目を開くと、そこは真っ暗な部屋の中だった。
自分が何者かを思い出すのに、数秒かかった。それから、ここが前島聖天ではなく、放三郎の屋敷の一室であることに思い至る。
のろのろと起き上がると、身体中が軋んだ。
「ぅん……」
「竜導……?」
名を呼ばれてぎょっとする。暗がりの中、枕元に正座していた人物が動くのを認めた。
「小笠原さん……」
声はのどに引っかかり、ほとんど囁きにしかならない。それでも、放三郎は身を乗り出してきた。
「竜導……私がわかるな?」
口を開くのが億劫で、黙ってうなずく。あたりまえのことを確認して、放三郎は身体を折り曲げ、両手に顔をうずめた。ただ深く息を吐き出しただけだが、それが安堵の嘆息であることは往壓にもわかった。
「なあ、俺はいったい……」
相手の態度の意味をたしかめようとして、ふと自分が全裸であることに気づく。着物どころか、下帯すらない。
「……!!」
頭が思い出そうとする前に、身体中の血が燃えた。つい先刻まで人ならぬものであった記憶が、感覚としてよみがえってくる。
「……ぅうっ!」
「竜導!?」
暴れる熱を封じ込めるように、往壓は己の肩を抱きしめてうずくまる。
伸ばした手を荒々しく振り払われた放三郎は、だがあきらめずつかみかかってきた。
「触るな! あんたを傷つけるかもしれねえぞ!!」
「だったらなおさらだ! おまえを妖夷にするわけにはいかん!」
なおも暴れようとする往壓を、放三郎はむりやり布団に押さえ込んだ。しかし直後、はっと怯んだように息を呑む。
上掛け越しに当たった往壓の中心は、熱く猛っていた。処理できない熱をどうにか人間的に表出しようとした本能の結果なのだろうと、放三郎は抵抗する身体を抱きしめながら考える。
「竜導……なにか言え……人の言葉をしゃべれ!」
苦しげな息を吐きながら、往壓は相変わらずかすれた声で呻いた。
「俺があんたを引き裂く前に……あんたが俺を……」
犯せ。
その単語に、放三郎は恐れおののき、震えた。
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