往壓/放三郎

2006_天保異聞妖奇士,[!],[R18]

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焦燥

「……なあ」
頭の上で、なにか呟いているのが聞こえる。
「なあ」
「うるさい」
話しかけてくるのを、容赦なく切り捨てた。だがその程度では相手も動じない。
「なんかあったのかよ」
「黙れ」
黙れと言って黙るような男なら、今までこんなにも苦労はしていない。
「小笠原さん……」
「黙れと言っておろう」
再三命じたにもかかわらず、男はふうとくたびれた吐息を洩らしただけだった。
「そんなに焦るなよ」
「焦ってなどいない!」
思わず顔を上げて言い返していた。
だが、目に入ったのは「してやったり」という嫌味な笑顔。
心を見透かされているようで、つい目を逸らしてしまう。
「そんなにしがみつかなくても……」
「つかまえておかねば、貴様はすぐどこかへ飛んでいってしまうだろうが!」
言ってしまってから、口を押さえたくなった。
これではまるで……
だがまともな言い訳も思いつかず、開きなおるしかなかった。
あざ笑うのなら好きにすればいい。こちらも好きにさせてもらう。
覚悟していた嘲りの言葉は、しかし聞こえてこない。
その代わりに、大きな手が優しく背中を撫でる。
「……おれぁいつでも、あんたのところに帰ってくるぜ」
つかの間、信じてしまいそうになった。その声が、あまりにもまっすぐだったから。
「……信用できるか」
こうして自らの腕でつかまえ、自ら印を残さねば、また行ってしまうだろう。
遠い遠い、異なる者の地へ。

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